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第一章 再会は偶然か、必然か

Author: 神夜 紗希
last update Last Updated: 2025-12-26 07:31:17

電車が揺れた瞬間、手の中のスマホが震えた。

『あなたと相性度90%の相手をご紹介します』

と通知が表示された。

仕事帰りの疲れきった体を、ガタンゴトンと小刻みに揺らされ、車内の暖房によって体を温められた美咲は、必死に眠気と戦っていた。

眠気交じりにスマホ画面に目をやった美咲は、何も期待する事なく『表示する』をタップする。

(ああ、いつもの“ピックアップ表示”ね…)

今までも何度か表示されたが、「いいね」を押したくなる男性が出てきた事はない。

しかし、今回は違った。

美咲はスマホに表示された写真を見た瞬間、固まった。

YU.S──29歳。

「……え?」

車内で自分だけなのに、思わず声が漏れてしまい、誤魔化すように咳払いをした。

美咲はもう一度、スマホ画面に目をやった。

プロフィール詳細をタップして、更なる情報を確認する。

登録写真には夕日を写した風景写真もあった。それは美咲の地元で有名な、夕日スポットだった。

名前はイニシャルだけだが、分かった。

この横顔、この笑い方。

彼とは小学校も中学校も、数回同じクラスだった。

“残念イケメン”という称号を持つ、元同級生。

——篠原 悠。

見た目は昔から整っていたけれど、時々見せる残念な言動が絶妙で、

教室をふわっと明るくするタイプだった。

アプリの中の悠は、

当時のあどけなさを残しつつ、きちんと“大人の顔”になっていた。

(悠もこのアプリ使ってたんだ……)

懐かしさと気恥ずかしさが入り混じり、美咲は無意識に唇を噛んだ。

写真の悠は、笑っているのにどこか影があって、

「昔と同じなのに、昔よりかっこいい」

そんな矛盾した感情が胸をくすぐる。

美咲はスマホを閉じ、窓に映る自分の顔をちらりと見た。

マスク越しでも、少し疲れているのが分かる。

(……大人になるって、こういう“余裕ない感じ”なんだなぁ)

営業職になって六年。

仕事は嫌いじゃないけれど、残業の日が続き、

帰れば倒れるように眠るだけ。

少し早く帰れた日だけが小さなご褒美で、

コンビニの缶チューハイとお菓子が、密かな癒やしになった。

休日は山に登ったり、神社に行くようになった。

自然の空気や鳥居をくぐる瞬間が、胸のざわつきをそっと静めてくれる。

(そろそろご朱印帳買いたいんだよな……)

そんな日々を過ごすうちに、気づけばもうすぐ三十歳。

「結婚しなきゃ」と焦っているわけじゃないけれど、

家庭を築いていく友達を見ていると、

——いいな。

と素直に思うことが増えた。

(恋愛、したい……悠は、どう思ってるんだろ)

少しだけ胸が温かくなり、美咲はもう一度アプリを開いた。

悠の写真を見ていると、懐かしい光景が次々とよみがえる。

・トイレットペーパーをズボンに挟んだまま堂々と歩いていたこと

・学芸会の直前、腹痛でセリフを早口で読み上げて走り去ったこと

・集合写真では9割の確率で“目をつむる”こと

ちょっと抜けてるのに、

なぜか憎めない。

クラスのムードメーカーで、

男子にも女子にも自然と愛されていた。

休み時間には筆頭でドッジボールの場所取りに走っていった姿も思い出し、美咲はふっと笑った。

(成人式以来会ってないけど……どんな大人になってるんだろ)

元同級生に『いいね』は恥ずかしいかな…

スルーされたらどうしよう…

恋愛関係なく、会うだけでも…

美咲はグルグル頭の中で悩んだあと——

(…えいっ!)

勢いで、画面をタップした。

“いいね”

(わ、押した!?…押しちゃったよー!)

美咲は表情は変えないまま、心の中で全力で騒ぐ。

少しだけ後悔しそうになった…その瞬間。

ピロン♪

『マッチングしました』

「……はやっ!」

美咲は目を丸くして驚き、また咳払いして誤魔化した。

我慢していたはずなのに、自然と口角が上がってしまった。

(……どうしよう。悠と、マッチングなんて…

 でも——ちょっと、嬉しいかも)

今日の疲れが少し軽くなった気がした。

再びスマホが震えた。

スマホに目をやると、

『メッセージが届きました』

と通知が来ている。

眠気があったのが嘘のように、美咲の瞳がキラキラと輝いた。

こうして、

二人の再会の物語は静かに幕を開けた。

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